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東京高等裁判所 平成7年(ラ)1145号 決定

(一) 人が、その意に反して、自己の容貌、姿態を撮影した写真を公表されることのない利益は(以下、便宜「肖像権」という。)、いわゆる人格権の一内容として法的保護の対象になる。そして、人の容貌、姿態を撮影した写真が契約関係又はこれに準ずる関係に基いて公表される場合においても、右公表が正当化されるためには、権利者の同意又はこれと同等の事由が疎明される必要があり、右事由の疎明のない限り、その写真の公表は、被保全権利たる肖像権を不法に侵害するものといわねばならない。

そして、前記の事実関係によれば、本件写真一及び二(編集注 抗告人は、本件写真一は、身体全体がアップで写っており、かつ、体の線がはっきり透けて見えるとして、出版を拒み、本件写真二は、胸の部分が透けてみえるとして、出版を拒んでいた。)は、その内容から見て、抗告人の肖像権の及ぶ写真であり、抗告人は、その意に反して公表されない利益を有するのであって、その利益は、法的保護に値するものである。

そこで、以下において、右正当化事由の存否につき、検討する。

(二) まず、前記の事実関係によれば、本件写真一及び二の公表について抗告人自身の同意はなく、同人の意に反して本件写真集に掲載されたものであるものというべきである。

相手方は、抗告人は本件各写真の本件写真集への掲載に同意していると主張する。しかし、抗告人の明示的な同意があるということのできないことは、前記の事実関係から明かである。また、抗告人が本件各写真の撮影に任意に応じていたからといって、本件写真集への掲載に同意したものとみることもできない。さらに、相手方が抗告人に対し、事前に閲覧の機会を与えているとしても、前記のとおり、抗告人が明確に異議を述べている以上、単に閲覧の機会があったからといって、同意を推定することもできない。

次に、相手方は、抗告人は、本件各写真の掲載を前提に本件写真集の刊行の作業が進んでいることを熟知しながら、写真集発刊の間近になって突然異議を唱えるに至ったもので、そのような異議は無効である、と主張する。

しかし、本件写真二については、元々セレクト外に分類されていたものであって、これが掲載されることを抗告人が知ったのは、平成七年五月一八日に相手方から色校正の送付を受けてからであることは前記のとおりである。したがって、抗告人のした異議が遅きに失したものということはできない(赤井は、その陳述書において、セレクト分とセレクト外の区分は、後者は第二候補であって、二つの区分にさほどの軽重はないように抗告人に説明したのであり、したがって、抗告人は、セレクト外についても十分閲覧しているとの趣旨を述べる。しかし、「セレクト外」分は、前記のとおり当面の選択の対象とされなかったのであるから、抗告人がセレクト外の写真につき十分な吟味を加えていなかったことを非難することはできず、この点に関する相手方の主張は採用できない。)。

ところで、本件写真一については、当初からセレクト分に分類されており、また、ミニ版にも掲載されていたのであるから、これに対する抗告人の異議は、事前に抗告人が閲覧してから相当期間が経過し、この写真が掲載されることを予定した本件写真集発刊のための相手方の作業がかなり進捗してからされたものということができる。しかしながら、相手方から抗告人に対し、本件写真集掲載用の写真の選択手順について的確な説明が事前に行われていたか疑問であり、抗告人が異議を述べることのできる最終期限が明示されていたとは認められないこと、抗告人のした異議が、本件写真集の作業手順の上で既に写真の差替えが不可能な段階に至ってからされたとする疎明はないこと、むしろ、前記のとおり、赤井は、抗告人の異議に対しその都度対応しているばかりでなく、相手方が本件各写真の掲載を決断したのは、本件契約の解釈に関する自らの判断に由来するものであること等の事情に照らすと、本件写真一についてされた抗告人の異議が法律上許されず無効のものであるということはできない。

この点に関する相手方の主張は、いずれも採用できない。

(三) 次に、相手方は、本件契約書によれば、本件写真集に掲載される写真の選択権は相手方にあり、抗告人もこの契約に拘束されるものというべきであるから、本件各写真の掲載が抗告人の意に反していても、抗告人は、肖像権に基づく請求をすることはできない、と主張する。

本件写真集の発刊は、抗告人の肖像権の処分を内容とするものであるから、その基礎となる本件契約書には抗告人の意思が反映していなければならないことはいうまでもない。本件契約書は、補助参加人と相手方との間で締結されているけれども、補助参加人は、抗告人の授権に基いてこれを締結したものであることは、本件契約書の二九条の文言から明かである。したがって、抗告人は、本件写真集の発刊について、相手方との間では、契約当事者に準ずる地位にあるものというべきである。

ところで、本件契約書の文言は前記のとおりであって、その一条三項(編集注 その文言は、「右写真中本件写真集に複製掲載する写真の選定、本件写真集のその他の内容及び本件写真集の装丁については、相手方の定めるところとする。ただし、補助参加人(抗告人の所属事務所)に意見があるときは、相手方は補助参加人と協議して、可能な範囲で補助参加人の意見を尊重する。」というものである。)を形式的にみれば、相手方主張のように解する余地のあることは否定できない。すなわち、この規定を文字どおりに解釈すると、抗告人は、任意に撮影に応じた以上は、写真集に掲載すべき写真の選択を全面的に相手方に委ねることを承諾した結果になる。しかしながら、このような解釈は、肖像権が人格の尊厳を内容とする人格権の発現形態の一つであり、したがって、肖像権に関する契約は、本人の意思が尊重されるように解釈されるべきであるとの要請に反すること、本件写真集企画の経緯が前記のとおりで、抗告人の意向を無視しては実現困難であることは相手方も認識していたと推認されること、本件のように女優の写真集を発刊する場合において、出版業界においては、モデルとなる女優の意思に反する写真は掲載しないものとする慣行が存在することが疎明されていること(甲一四)等に照らし、到底採りがたい解釈というべきである。そして、これらの事情に照らすと、むしろ、右の条項は、写真家とモデル双方が写真集に掲載することを一般的に了解した写真であることを当然の前提として、その中から、現実に写真集に掲載する写真を具体的に決定するについては、相手方に決定権を委ねる趣旨にとどまるものと解するのが相当である。

そうすると、本件契約書一条三項を根拠として本件写真一及び二を本件写真集に掲載することができるとする相手方の主張は、本件契約の独自の解釈に基づくものとして、採用することができない。

(四) のみならず、前記の事実関係によると、平成七年五月一八日の国際電話での交渉の結果、赤井は、抗告人に対し、本件写真一については、赤井が別途送付していた二枚の代替写真のうちから抗告人の指定した一枚に差し替えること、本件写真二については、これを胸の部分が透けないよう修正して掲載することを、それぞれ約したものということができるから、この点においても、本件写真一及び二を掲載したまま本件写真集を発刊することは許されないものというべきである。右のように変更することについては、写真家であるシーフの了解が得られなかったことが窺われるけれども、そのことは、相手方において、本件各写真を掲載したまま本件写真集を発刊することをなんら正当化するものではない。

(五) 以上によると、抗告人の主張する被保全権利については疎明があったものというべきである。

2 保全の必要について

相手方が本件各写真を本件写真集に掲載してこれを公表することが、抗告人の肖像権を侵害するものであり、相手方において、これを正当化できる事由をなんら疎明できないものである以上、抗告人として、右権利侵害を甘受しなければならない理由はないものというべきであるから、抗告人には、本件申立てに係る仮処分によって右権利侵害を排除する必要性があるものというべきである。本件仮処分が命ぜられることにより相手方に損害を生じることは、自己の選択した行為の結果は他人に転嫁できず自らが負うべしとする自己責任の原則からして、仮処分を命ずることの妨げとはならない。

(淺生重機 田中壯太 杉山正士)

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